植物の栄養素の吸収と輸送




どうも,野良百姓です.

ここ最近は雨の降り方が異常ですよね.
雨が降らないと,潅水をする手間が発生するので農家の方は大変だろうなぁと想像しております.

水がないと日焼けならぬ肥焼けをする,ということが言われますし,肥料の効きも悪くなる,と言われています.
なぜ,雨が降らないと肥料の効きが悪くなるのでしょうか?

今回は,植物の栄養素がどのようにして土から吸収されるのか,また,どのようにして輸送されているのか,ということを解説していきたいと思います.

根圏での必須栄養素の動き

根圏での物質の動きは以下の3種類に分けることができます.

  • 直接吸収
  • マスフロー massflow
  • 拡散 diffusion

ここでは,それぞれについてごく簡単に説明をします.

直接吸収とは,根に接触した物質が根の細胞へ吸収されることですが,これは植物の根が吸収する必須栄養素全体の一部でのみ生じているに過ぎません.
マスフローとは,植物の蒸散作用によって,水が根の近傍へ運ばれる際に物質も同時に運ばれることです.
拡散とは,必須栄養素の溶けた土壌溶液が濃度差に従って,濃い場所から薄い場所へ向かって土壌溶液が流れ,物質の吸収によって濃度が薄くなっている根の表面は運ばれることです.

肥料の吸収 (Plants in Actionより引用)

根圏とは
根の影響が及ぶ根の近傍の土壌を根圏土壌と呼び,根と根圏土壌の両者をあわせて根圏と定義されています.根圏の範囲は,養水分と微生物活性の2つの見方がありますが,一般的には根から数mm~1cmの範囲と考えられています.

根での物質吸収

根での物質吸収の話をする前に,根の構造についての解説をしたいと思います.
根の構造は,次の図のように外側から維管束へ向かって順に次のようになっています.

根の構造 (筑波大学生物学群HPより)

  1. 表皮 epidermis
  2. 外皮 exodermis
  3. 内皮 endodermis
  4. カスパリー帯
  5. 内鞘 pericycle

ここで,外皮と内皮はまとめて皮層cortexとも呼ばれています.
また,カスパリー帯は内皮細胞の細胞壁にリグニンやスベリンが沈積して形成された不透水層のことです.
カスパリー帯の存在により,根は無制限な水の流入を防ぐことができます.

そして,根での物質吸収には次の2つの経路が存在しています.

  1. シンプラスト経路
  2. アポプラスト経路

この2経路のうち、原形質連絡plasmodesmata(sg. plasmodesma)でつながっている細胞膜の内側の細胞質を通って物質が移動する経路のことをシンプラスト経路といいます.
また,細胞壁や細胞間隙などの細胞膜の外側を通って物質が移動する経路をアポプラスト経路といいます.

原形質連絡とは
植物に見られる細胞同士の結合のこと.細胞壁に空いた小孔で,膜によって裏打ちされた細胞質のチャネル.(Essential細胞生物学 原著第3版, p.795より)

上でも書いた通り,カスパリー帯では内皮細胞の細胞壁にリグニンやスベリンが沈積して不透水層が形成されているので,アポプラスト経路で運ばれた物質は内鞘へ入るためには一旦シンプラスト経路へ入ることが必要です.
また,カスパリー帯は水の流入量も調節していると上で書きましたが,内鞘側に水を運ぶ際では,シンプラスト経路へアポプラストから入ることが必要です.

そこで,カスパリー帯には水を内側へ入れるチャネルであるアクアポリンが存在し,水の計画的なシンプラストへの取り込みに寄与しているのです.

輸送体タンパク質

細胞は主にリン脂質で構成された細胞膜によって覆われています.
脂質二重膜の外側は親水性なのですが,二重膜の内部は疎水性なので,イオンが細胞内へ浸透するには時間がかかります.
というのも,イオンは水に溶けやすい物質であり,疎水性の部分は親油性のものばかりなので水がはじかれて移動しにくくなっているのです.
そのため,生物はイオンの効率的な輸送を行うため,細胞膜上にはイオンの輸送体となるタンパク質が存在します.

輸送体タンパク質は大きく次の3種類があります.

  1. イオンチャネル
  2. ポンプ
  3. トランスポーター

イオンチャネル

受動輸送を担う膜タンパク質で,細胞膜を貫通する親水性の小さな孔を持ち,孔が開いている間のみイオンを通すことができます.
イオンチャネルのタンパク質がイオンと結合して,チャネルタンパク質の高次構造 (主に4次構造) が変化することで溶質を透過させています.
このイオンチャネルの多くは,存在部位周辺の膜電位の変化によって孔の開閉を行う電位依存性チャネルです.Ca2+, H+などの結合やリン酸化によって孔の開閉が制御されているものもあります.

ポンプ

一次能動輸送を行う膜タンパク質のことです.
能動輸送を行うので,電気化学ポテンシャルの低い側から高い側へと電気化学勾配に逆らって基質を運ぶことができます.

一次能動輸送
輸送体自身が直接ATPの加水分解エネルギーを利用してイオンを能動的に輸送すること

濃度が薄い側から濃い側へと力づくで移動させることができます.

例としては,H+–ATPase, ATP Binding Caset transporter (ABC transporter)などがあります.

細胞内での物質の移行

トランスポーター

ABC transporterでも出てきた「トランスポーター」という語には,次の2種類の意味があります.

  • 広義:チャネルなどを含んだ物質輸送を担う膜タンパク質一般
  • 狭義:一次能動輸送で形成されたイオンの電気化学ポテンシャル勾配を利用して溶質を運ぶ,二次能動輸送をするもの.

一般的に「トランスポーター」という語は狭義で使われることが多いのですが,まれに広義のトランスポーターも含まれていることもあります.
ここでは,狭義の意味で使っていくこととします.

狭義のトランスポーター

トランスポーターでは,吸収速度と外液のイオン濃度の関係はミカエリス–メンテン式Michaelis–Menten kinetics に従うことが知られています.

$$v=\frac{V_{max}[S]}{K_{m}+[S]}$$

この時,\(K_{m}\)は基質に対する酵素固有の結合定数で,\(\frac{1}{2}V_{max}\)時の基質濃度です.
また\(V_{max}\)は基質に対する酵素の結合部位が飽和に達した際の最大反応速度のことです.
低濃度領域で機能するトランスポーターを高親和性トランスポーター (\(K_{m}=10^{-6}\)オーダー) といい,高濃度領域で機能するトランスポーターを低親和性トランスポーター(\(K_{m}=10^{-3}\)~\(10^{-4}\)オーダー)といいます.
高濃度領域と低濃度領域では,それぞれ異なった別の輸送体が働くこともありますし,同一の輸送体の構造変化によって異なった\(K_{m}\)値を持つと考えられています.

ミカエリス–メンテン式の導出については別記事で.

ミカエリス―メンテン式の導出

2017年7月30日

植物体内における栄養素の輸送

どういったものが植物体内での輸送に関わっているのか,という話が終わったところで,実際にどういった輸送が行われているのかを話したいと思います.
栄養素の輸送の上では,植物体はシンクsinkとソースsourceの2つの部分に分けて考えることができます.

  • シンク:植物体内で様々な物質が集積していく部位
    Ex.)貯蔵器官,展開中の葉
  • ソース:物質生産を行い、送り出す部位
    Ex.)成熟した葉

上の例をもう少しわかりやすくしていきましょう.
まず,植物が生えて,大きくなっていくと葉ができますが,茎の先端では新たな葉が生まれてきます.この新たに生まれた葉が大きくなる (展開する) ためには,外部からのエネルギーが必要なので,既に展開した下の葉から栄養を受け取ります.
このように,植物は成長段階に応じて,様々な部位がシンクとなり,ソースとなっていきます.

ソースからシンクへの物質の移動は篩管を通じて行われています.篩管は導管とは違い,物質の上下への移動が可能です.
ですので,例えばトマトの実に送り込む糖は,房の上側の葉だけではなく下側の葉でも生産されています.

細胞外から導管への移行

必須栄養素は,表皮細胞の細胞膜上のトランスポーターを通じて細胞内へ取り込まれるか,アポプラストを通じて皮層細胞や内皮細胞周辺まで移動し,そこで細胞内に取り込まれていきます.
これは,内皮細胞にはカスパリー帯があるために,アポプラスト経路で移行してきた栄養素はアポプラストを通じて中心柱へ入り込むことはできないということと一緒です.
そのため,栄養素は一度内皮細胞内へ取り込まれ,シンプラスト経路で移動してきた栄養素などと合一されてシンプラスト経路へ入ることで内鞘細胞へ移動することができます.
内鞘細胞からアポプラストへ放出され,導管へと物質が移行します.導管は細胞としては死んでいるので,篩管と異なり細胞質はありません.

導管での移行

導管による移行が行われるための力には次の3つがあります.

  • 根圧
  • 葉の蒸散
  • 水の凝集力

根圧

根による積極的な必須栄養の吸収によって木部液は濃くなり,水ポテンシャルは低下します (浸透圧は高まります).
低下した水ポテンシャルは,外界から水や養分を含んだ土壌溶液を吸収する駆動力となり,陽圧の根圧を発生させます.

これは,低下した水ポテンシャルを引き上げるために (浸透圧を下げるために) 外部から水を取り入れることで発生していると理解しやすいと思います.

蒸散

蒸散によって植物体の地上部で水が失われることで,陰圧が発生します.

これは,布団圧縮を思い出してもらえばわかりやすいのではないでしょうか.
外側から掃除機で空気を吸われると,袋の中の空気が減り,後で蓋をうまく閉められなければそこから空気が入り込んでしまうという,という現象がありますが,これの空気を水に,布団を入れる袋を植物と考えればイメージしやすいのではないでしょうか.

凝集力

導管の水柱に張力を発生させることで,根の木部から葉までに至る水柱を維持しています.

これは,水分子中に含まれている酸素と水素の間で水素結合が働いていることで形成されています.

篩管周辺での物質移動

篩管

篩管細胞が連結し,隣接した細胞と細胞を繋げる部分である原形質連絡が発達した孔の存在する篩板を介して上下に管を形成しています.

篩管細胞の周辺には,細胞質に富んだ伴細胞が存在します.
伴細胞は篩管細胞と同一の細胞に由来していて,互いに娘細胞の関係にあります.
篩管細胞は,分化の過程で細胞壁が厚くなり,ゴルジ体・液胞・核の3つを失いますが,細胞膜を保持しているので,すべてが死細胞の導管細胞とは異なり,篩管細胞内はシンプラスト,つまり細胞質なのです.

導管→葉肉細胞

葉肉細胞で利用される必須栄養素と水は,木部柔細胞から細胞内へ取り込まれます.
そして,原形質連絡を通して維管束鞘細胞を経て,葉肉細胞まで運ばれて利用・代謝されます.

葉肉細胞→篩管

葉肉細胞で炭酸固定をされてできた光合成産物であるスクロースsucroseやアミノ酸等は,原形質連絡を通じて維管束鞘細胞,篩部柔細胞へと運ばれます.
篩部柔細胞周辺でアポプラストへと放出された光合成産物は,篩管–伴細胞複合体の細胞膜上にあるトランスポーターによって,この複合体内へ取り込まれ,濃縮されて濃い濃度で篩管に存在しています.

篩部柔細胞と篩管–伴細胞複合体の間には原形質連絡はありません.一方,篩管細胞と伴細胞原形質連絡によって密に連絡をしています.

篩管での物質移動の駆動力

篩管において物質が移動する際の駆動力は水ポテンシャルの差によって流れが生じる,圧流説が広く支持されています.
圧流説では,以下の2つの理由で現象を説明しています.

  • ローディング
  • アンローディング

ローディングでは,篩部柔細胞でアポプラストへと放出されたスクロースがH+と共輸送されてトランスポーターによって篩管内に取り込まれます.
→ソース側の篩管のスクロース濃度が上昇し,水ポテンシャルは低下します.すなわち,浸透圧が高い状況になります.(水が流入しやすい)

アンローディングでは,転流してきたスクロースがデンプンなどの高分子化合物へ合成されるため,スクロースは師管外へ取り出されます.
→シンク側の篩管のスクロース濃度は低下し,水ポテンシャルは上昇します.すなわち,浸透圧が低い状況になります.(水が流出する)

これらの理由で水ポテンシャルに差が生じて物質は転流されていきます.




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研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.