中国に盗られた日本のイチゴの商標から農産物輸出の商標を考える




どうも,野良百姓です.

8月一か月の間何も更新できませんでした…
言い訳をしても仕方がないので,頑張って更新をしていくのみです.修論とかもあるので大目に見てほしいとは思いますが.

さて,今日は約1週間前の9月6日の農業新聞の一面記事から.

何が問題なのか

今回のスカイベリーの話の問題点は,日本で商標がとられている「スカイベリー」の権利が中国で獲られたということ… なのです.

記憶されているでしょうか,スカイベリーを育種した栃木県はかつて’とちおとめ’の育種もしています.
その時は’とちおとめ’という品種を登録して「栃木産とちおとめ」という珍妙な(?)売り出し文句がスーパーの店頭に並んでいたことを記憶されているでしょうか.
今回はその時の反省を生かしたのかどうかは知りませんが,スカイベリーの名称は商標で取られました.

記事の中に紹介されていた,福岡県の「あまおう」ですが,こちらは商標です.そのため,「あまおう」という品種はないんですよ.このあたりについては下でより細かく話をしていきます.

品種と商標と

まず,品種と商標の関係について.

品種と商標は知的財産であることは一緒ですが,それらを管理する法律が違います.
品種にあるのは育成者権というもので,こちらは種苗法 (種子法とは違いますよ!!) で規定がなされています.
一方で商標権は商標法で規定がなされています.

品種–育成者権

この育成者権は,品種保護の国際的な規約となっているUPOV条約 (植物の新品種の保護に関する国際条約) という国際条約の中でも述べられているものになっています.
UPOV条約ですが,2016年10月時点で全世界で74の国と地域が条約の締結を行っています.

さて,育成者権の話をしましょう.
育成者権は,国際的なUPOV条約によって裏付けがされている知的財産権の一つです.

知的財産権というと,パッと思いつくものは何でしょうか.
著作権,特許権,実用新案… おそらく読者の方々が関わる仕事によって思いつくものは様々でしょう.

育成者権は特許権などと同様に独占することが可能な期間が定められた権利となっています.
具体的には,木本植物 (果樹など) では30年間,その他の栽培される全植物 (分類的にはキノコは菌類ですが,栽培植物として品種登録が認められています) は25年間,と定められています.
今回のイチゴの場合には25年間の品種の独占権があるわけです.

かつての’とちおとめ’の登録の時に,開発元の栃木県が25年間の独占期間に目指した目標は「イチゴ苗市場における’とちおとめ’の販売拡大」でした.

と,ほとんどのサイトでは取り上げられているのですが,どうやら本来は’とちおとめ’で登録したかったわけではなかったようです.
出願審査の際に名称変更命令があったようで,登録名を’栃木15号’から’とちおとめ’へと変更したという記述を栃木県農業試験場研究研究報告で発見しました.
そのため,当時から「栃木のイチゴ=とちおとめ」として販売することを念頭に置いていたのでしょう.

栃木県の先見の明(?)は国の審査で通らず,仕方なく(?)’とちおとめ’という品種にしたうえで,収益を上げるために苗市場でのプレゼンスを高める,という方向へと変化していったと考えるのが妥当ではないでしょうか.

商標権

なじみのない育成者権はわかったぞ,と.
商標権というのは何ぞや,という話です.

商標は,「商品のサービスや,商品またはサービスが他と異なる」ということを明示的に示すためのものです.
そして,その明示的に異なることで発生する利益を保全するための権利が商標権です.

例えば企業活動によって生み出されるサービスや商品を継続して利益の保全を行うためには,商標権が一時的なものであっては困るわけですよ.
そのため,商標権は半永久的に存続する権利となります.

正確に言うと,当初10年間は保護されますが,その後は商標権の更新をしないと商標権の保全は行われません.
なので,お金さえ払い続ければ商標権はほぼ永久に主張できますよ,というものになります.

本筋から離れてしまいますが,企業がM&Aを行う際に被買収企業の価値を算定する際に商標から生まれる利益についても特許から生まれる利益と同様に算定を行っているそうです.
いわゆる「のれん代」というやつですな.
この辺の国ごとの考え方は面白くて,「のれん」というのは日本の会計基準では年を経るごとに減損していくのですが,外国の基準(たしかIFRS)では「のれん」は大幅な価値の毀損がなければ減損をできないものとなっています.
要は,日本ではブランド価値は徐々に薄まっていく,と考えるのに対して欧米ではブランド価値の毀損はなく,むしろ営業を続けるごとに高まっていく,という考え方なのでしょうね.
閑話休題.

福岡県の「あまおう」は,こちらの商標権で保全されているものになります.

商標がとられていると,「あまおう」の中身の品種は問われないわけですよ.
中身がどんな品種であってもいい.
極端な話ですが,「あまおう」と書かれたイチゴパックの中身が’とちおとめ’でもいいわけですよ.

「あまおう」は食品としても使える商標の範囲を持っているので,「あまおう」のケーキとかを作ろうとした時にも,福岡県にはお金が入る仕組みになっています.
(仕組み的には入るんですけど,実際に許諾をする際にお金のやり取りがあるのかどうかは知りません)
仕組みとしてよくできているなぁ,と思います.

さて,商標権について何となく大雑把な理解が得られたところで,商標権と育成者権をまとめてみます.

権利期間 根拠法 対象
育成者権 25年または30年 種苗法 農産物の種苗
商標権 当初10年間だが登録の延長が可能 商標法 任意のサービスおよび製品

こんなところでしょうか.

ブランド化の話

ブランド,とは何なのでしょうか?
私の大学時代のマーケティング論の教科書であったKotler&Kellerのマーケティング・マネジメント基礎編を開いてみました.

ブランドとは
個別の売り手もしくは売り手集団の商品やサービスを識別させ,競合他社の商品やサービスから差別化するための名称,言葉,記号,シンボル,デザイン,あるいはそれらを組み合わせたもの.

という意味だそうです.
履修したはずなのにもう忘れてしまっています.情けない.

では,ブランドの中で最も重要なものは何なのでしょうか?
それは,競合他社の商品やサービスから差別化するということです.

つまり,ブランド化=他との差別化ということで,商標権のお話になってくるわけです.
しかし,ここで商標の話を繰り返すのはアホラシイので,もう少し深い話をしたいと思います.

ブランドイメージ

まずは,ブランドのイメージの話をしましょう.

ブランドには,消費者それぞれに各ブランド固有のイメージがありますよね?
例えば私なら,Louis VuittonだったらLVのマークや市松模様のダミエ,とか.ChanelならChanel no.7の香水とかでしょうか?
ユニクロだったら手軽に買える普通の服,とか.
こういうイメージがあるかどうか,というところがまず大事になってくるわけです.

ブランドイメージが存在しないと,そのブランドを常に選び取ってもらえなくなってしまいます.
要するにその他大勢の中の一つとしかならないわけですな.

ブランドの認知

さて,ブランドのイメージという話のあとに,ブランドの認知という話題です.

ブランドの認知とは,そのブランドを売り場で常に消費者側が見つけ出せることを指しています.
棚にたくさん並んだ野菜から,まさにその産地の野菜を探し出す作業に近いと思っていいでしょう.
そして,棚から選んでもらえるような状況を作り出していくことが必要ですが,このあたりは今回の趣旨ではないので省きます.

さて,日本産イチゴの話に戻りましょう.
日本産イチゴは,はたしてどの程度海外の消費者から認知されているのでしょうか.

日本産青果物のブランドイメージは,安全・高品質・高級といったところがよく巷間では話題になります.
で,そのブランドの認知は? という話になると,…ワカラナイ.

というのも,日本の産物を輸出する際には農協単位 (正確には県連単位なのだろうか) になってしまっている現状があります.
となると,あくまで自県産であることをアピールするわけで,例えば福島県産モモ,とか,青森産リンゴ,とか.そういったものであり続けているわけですよ.
ところが,海外の消費者は”Japanese fruits is good quality”と思っているので,Where is Fukushima?という感じになっているのではないでしょうか.

なので,ブランドの認知,という点では日本産の青果物を輸出するに当たっては大きな障害があると考えられます.

結局今後はどうしたらいいのか

で,お前はどうしたらいいと思うんだよ,という声が聞こえてきそうなので,私なりの考えを書いておきたいと思います.

海外に農産物を売りたい,というときにどの程度ブランドが浸透できるのか,ということが重要であるということは,今までの私の筆致から理解していただけたかと思われます.
日本から海外に売り出せるイチゴの量なんてタカが知れているわけですよ.
そうなると,「あまおう」か「スカイベリー」か,なんて

    どうでもいい

わけです.

単純化して考えるなら,外国では自国産のイチゴなのか,日本産のイチゴなのか,という程度の区別しかしていないわけです.
このような状況にあると考えると,全農などの外国に農産物を売り捌く商社が適当に商標 (例えば「甘草苺」「DouxBerry」とか) を取って,それを張り付けて売り出せばいいじゃないか,という話なんですよ.
どんな産地のものであっても「甘草苺」とかいうラベルを張れば売れるわけなので,日本産イチゴの端境期というものをつぶすことができますよね.
まぁ,その地域ごとの品質の違いを反映して買い取り価格を変えるとか,特級,一級などのように等級分けをして価格を変えるとかするのも一手だとは思うのですけれども.

ということで,私の結論としては地域ごとの商標ではなくて日本産イチゴを示すような包括的な商標を輸出を行う団体が,今後の輸出可能性がある各国で取るべきということです.
ありきたりですが,日本産を売り出していきたい,という政府方針なども考えるとこのあたりに落ち着くのではないでしょうか.

今回は農業新聞の記事から輸出時の商標の話まで飛んで行ってしまいました.
この件では法律関連の話を扱いましたが,私は一切の法律に関わる資格を保有しておりません.
具体的な個々の事案等については,弁理士または弁護士などの有資格者にお問い合わせいただきたいと存じます.




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ABOUTこの記事をかいた人

研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.