種なしブドウは生まれなかったかも?




どうも,野良百姓です.

みなさんはブドウが好きでしょうか?
私にとっては非常に好きな果物の一つです.ブドウジュースやワイン,生食など様々な形でほぼ毎日摂取しております(笑)

さて,そんなブドウですが,皆さんが食べるブドウはどんなブドウでしょうか.「種無し」ブドウでしょうか.それとも種ありブドウでしょうか.今回は,種無しブドウが生まれたきっかけや,種無しがあるブドウと種無しがないブドウについて書きたいと思います.

種無し処理薬

種無しの処理には,農薬を用いています.農薬といっても,「植物成長調節剤」と呼ばれる植物ホルモンの一種を用いています.この種無し化をするために用いられるものは,ジベレリンという植物ホルモンです.

ジベレリンとは

ジベレリンは,1926年に台湾総督府の農事試験場に奉職していた黒澤技師によって発見された物質で,1938年に東京帝国大学の薮田博士と住木博士によって構造が決定された日本に非常になじみの深い植物ホルモンです.

ジベレリンについて語るには非常に狭いので,簡単に言うと,植物の成長に関わる植物ホルモンであると思っていただいて大丈夫です.

様々な部分の成長に関わっており,果実の肥大や茎の伸長に関わっています.そのため,ブドウの実を大きくし,房を長くすることが可能なのではないか…? というところが種無し処理にジベレリンを使おうというモチーブになりました.

種無しブドウの理想と現実

ところで,種無しブドウというものが品種としては存在します.例えば’トンプソンシードレス’や’スルタナ'(これらは同じブドウを指しているけど)がそうです.この品種の果実は’デラウェア’並に小さい品種です.また,種ができにくいため品種改良の親として使いにくかったり,種をまいても大きな実をつけないものばかりで,育種の上では使えないということが大きな課題として存在します.

そういうわけで,通常の育種法で種無しブドウを品種として確立させる動きはあまりありません.しかし,3倍体化という方法を用いて種無しブドウを品種として’BKシードレス’という品種が九州大学で育成されています(2009年に品種出願,2011年に品種登録).
この方法で種無し化がされているものというと,スイカがありますが,最近はめっきりスーパーでは見なくなりましたね.今も行われているのでしょうか.

種無し処理法の発見

さて,種無し処理法の発見です.種無し処理法は,まず’デラウェア’で発見されました.

スーパーで売っている’デラウェア’を思い出してください.ブドウの房にびっしりと実が着いていますよね? しかも,隣同士の実が密着していて房から取るの大変ですよね?

この密着具合も昔から比べて改善されているのですが,昔はもっと大変なことになっていました.密着しすぎていて,実が膨らむときにお互いを邪魔し合ってブドウの皮が裂けてしまっていたのです.皮が裂けてしまっては商品にならないので,農家は困ります.

これを解決するために直感的に考えられる方法は2通りあります.

  1. 房に付いている果実を手作業で減らす
  2. 実と実の間を離すために花の軸を延ばす

まぁこんなところでしょう.
いいですか? ‘デラウェア’ですよ? あの小さい実をハサミで適当な数に落としていくとかやりたいですか? まぁ,仮に現実にできたとしましょう.農家の手間賃いくらですか?そんな高いブドウ買いませんよね?

ということで,実と実の間を離す方向に研究は進みます.そこで,ジベレリンの性質として挙げられている「成長に関わる植物ホルモン」という点が大事になってきます.ジベレリンは植物ホルモンではあるものの,イネ馬鹿苗病菌が生産する物質でもあるため,同じような作用を持つオーキシンと比べて比較的容易に手に入れることが可能な物質でした.

で,ジベレリンを実際に使ってみると,確かに花軸は伸びました.しかし,開花が早まるとともに,種がない小さな実が着いたのです.

小さな実では売れませんが,これを種があるものと同じくらいの大きさになれば種無しブドウが作れる!ということで,研究がすすめられました.その結果,開花前と開花後の2回に分けてジベレリンを与えると,種無しも種ありとほぼ同じ大きさの’デラウェア’となることが分かりました.

処理法の拡大

その後は,技術拡大のフェーズに入ります.ブドウを食べる際に,わざわざ種を出すのは面倒なので,ほかの品種でも使えるのであれば使いたいと思うのが人情というものです.まぁ,皮が食べられないし,どうせ出すなら種があっても一緒だろ…と思う人もいますけど,人類の大多数はめんどくさがり屋なのでない方がいいに決まってます.

実際にジベレリンで処理をすると,一部の品種でしか実現できませんでした.具体的に実現が可能であったのは,’巨峰’,’ピオーネ’,’マスカット・ベリーA’でした.

しかし,これら以外の品種でも種無しを売っていますよね?ジベレリンだけでは難しい品種に対しても使える技術が開発されているため,種無しブドウが生産できるようになっています.例えば,植物ホルモンのサイトカイニンを化学的に合成し,散布する方法が1993年ごろより用いられていますし,抗生物質のストレプトマイシンを用いることでも種無し化が可能です.ジベレリンとストレプトマイシン,ジベレリンとサイトカイニン,サイトカイニンとストレプトマイシン,といったような合わせ技も割と使われています.

今後も様々な技術が開発されていくのだろうとは思いますが,現在は育種を行う際の選抜過程で種無し処理に向かない品種候補は淘汰されていっているのではないでしょうか.そうであれば,現在ある技術で対応できないけれどもよい性質を持っている品種は世に出ないことになってしまうこともあり得る話ですよね.種があっても,十分な付加価値が与えられる品種が出てきてくれたら,新たな技術の開発が行われることになるかもしれませんね.

ジベレリンの安全性

ジベレリンは安全かどうか,みたいな話が昔あったような気がするんですが,私の気のせいでしょうか.

まぁ,とりあえず調べておいたら面白いかなと思ったので,アメリカの農薬登録関連のものを漁ってみたのですが,あんまり大したことはなかったわけです.ただ,「オーガニックな」農産物を生産するために許可してほしい,という嘆願書を発見したので,その中に安全性に関わる項目があるはずと思い確認してみました.

安全性を試験した論文が色々と書いてありましたが,何の危険性もないよね,という感じでした.

短期的な場合は毒性がありません.長期的な毒性試験ですが,植物ホルモンだし,元からエサに含まれてるんだからしなくていいじゃない,という書き方でした.まぁ当たり前といえば,当たり前ともいえます.遺伝子の変異を調べる実験として,リンパ細胞を培養しているところに2500 µg/mLの濃度(これ以上与えるとpHが変化してしまうので無理だった)で撒いたところ,何の変化も見られませんでした.また,モルモットに長期間2,000mg/kgまで与えて育てたところ,肝細胞の変異がみられませんでした.

このような点から,安全性に問題がある… というような言説は現在ではデマということができるのではないでしょうか.

では,また.




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ABOUTこの記事をかいた人

研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.