手軽に使える?! 栗の新品種誕生!




どうも,野良百姓です.

ぼちぼち栗の花が咲くころになってきました.あのビミョーな臭いをまき散らすあいつです.
私はどうしても好きになれませんが,皆さんどうでしょうか.

知人の虫屋さん(昆虫マニアともいいますが私は虫屋さんと呼びます)は,「ハナカミキリの採集をするには栗の花がいいんだ」などと言っていました.
蓼食う虫も好き好きとは言いますが,本当にそんなもんなんでしょうね.人も虫も好みはいろいろでしょうし.

さて,今回は栗の話題です.少し情報が古くなってしまいましたが…ご容赦ください.

栗の種類

そもそもですが,皆さまは栗が何種類あると思いますか?
「天津甘栗と日本の栗は違うよな…」というところで2種類,とお答えになるか,「天津甘栗と日本の栗とマロングラッセは全部違うだろ」というところで3種類とお答えになるのかの2パターンと推測しますがどうでしょうか.

食用として主に食べられているものという観点では,「天津甘栗と日本の栗とマロングラッセは別の種類」という認識でOKです.
まずは前座として種の紹介をさせてください.

クリ

日本原産の栗です.学名はCastanea crenataといいます.
Castaneaは栗を意味するラテン語で,crenataは円鋸歯状のという意味のラテン語crenatusの女性単数主格です.
この円鋸歯状の,というのは葉の形を指す術語です.
のこぎりの歯のような状態を鋸歯というのですが,円鋸歯というのは,のこぎりの歯のように鋭く尖っていなくて,丸っこくなっている状態のことを指します.
人によって判断は違うと思うんですけど,私はあの葉の形を見たときに円鋸歯ではなくて鋸歯状では…と感じたんですけど.まぁ私は分類が専門ではないので,プロがそういうならそういうもんだという理解にしておくこととします.

シナグリ

シナグリは,その名が示すとおり中国(=支那:シナ)原産です.C. mollissimaという学名が与えられています.
mollissimaは”柔らかい”または”弱い”を意味するラテン語のmollissimusの女性単数主格です.
渋皮が剥きやすいという性質を持っているシナグリなので,弱いという意味で取るとすれば,渋皮と実のくっつき方が弱いという意味になるのではないでしょうか.学名の意味としても分かりやすいですし.

ヨーロッパグリ

ヨーロッパの栗です.マロングラッセに使われている栗で,C. sativaという学名です.
sativaは”栽培の”という意味のラテン語sativusの女性単数主格です.
大体,昔から栽培されているやつはsativaとつけられる傾向にあります.例えばコメのOryza sativaのような感じです.

総括としては,栗と漢字で書いた場合,クリ属全体を指す名称として日本では使われているのではないかと考えられます.
一方で,クリと書いた場合はクリ属クリという種を表していると考えられます.まぁどうでもいいですわな.

従来の日本の栗

さて,日本の栗の話をしましょう.

日本の栗はとにかく鬼皮といわれる固い殻をむいた後に見える茶色のスエードっぽい皮が剥けにくいことが問題でした.
天津甘栗はあんなに小さくてもきれいに鬼皮が剥けますよね?
何か不平等な感じがするじゃないですか.時間がかかる割にきれいに剥けないので,鬼皮の近くの果肉を削って捨ててしまう,という荒業もありますが,それを家庭でたくさんやるのも大変ですし.

ということで,一時は60,000t近く生産されていた栗も,現在は20,000t程度に生産量は落ち着いてきています(FAOSTATより).

生産量も落ち着いている中で,消費の拡大をしていくには,この面倒な鬼皮をむくという作業を減らしていくことが必要であることは,栗の育種を行う研究者のだれもが思っていたと考えるに難くはありません.

しかし,果樹の育種には時間がかかります.イネでさえ10年かかるのですから,その倍以上は時間がかかってしまうのです.

ぽろたん誕生

こんな状況でしたが,2006年に農研機構の果樹研究所で新たな品種である’ぽろたん’が誕生しました.

この品種は,非常に画期的でした.
何が画期的かといえば,旧来はシナグリとクリの交雑を行うことで得ようとしてきた鬼皮をむきやすい品種が,日本の栗の交配の中で見つけられたのですから.
これが何を意味しているのかというと,鬼皮が剥けやすい遺伝子というのは日本のクリの中も隠し持っていたということです.つまり劣性の遺伝子だったということですね.

この’ぽろたん’は,’森早生’×’改良豊多摩’と’国見’を交雑したことで生まれた’550-40’という色気も何もない品種と,’丹沢’を交雑することで得られたものです.

鬼皮もむきやすく,栗1粒の重さが28g程度と親の片割れである’丹沢’の25.2gよりも大きく,早くに収穫ができる早生の性質を持っている… と農家やユーザーの両者にとって良い品種です.

鬼皮の剥けやすさの比較(NAROのHPより)

とはいえ,’ぽろたん’にも大きな問題があります.

それは,「自家不和合性」というほとんどの果樹が逃れることのできない宿命のようなものです.
これがあるがために,’ぽろたん’を栽培する際には別の品種も植える必要がありました.
他には同じ性質を持っているクリはいないので,従来の鬼皮が剥きにくいクリを植えなければならなかったのです.
また,「鬼皮が剥きやすい」ということがウリの品種なので,鬼皮が剥きにくいものが混入するのはクオリティを維持するためにも避けなければいけない事態です.

こうなってくると,’ぽろたん’と収穫時期が重ならず,かつ商品性の高いクリを選ばなければなりません.
そうなると,ほぼ必然的に’利平’という品種を選ぶことになります.
確かに’利平’は良食味のおいしい品種ですし,ありっちゃありの選択ではありますが,鬼皮が剥きやすい品種のシーズンが短いのも考え物ですし,混入を避けた栽培もめんどくさいですよね.

ぽろすけ登場

こうした問題の解決を図るために,果樹研究所が2017年に投入する品種が’ぽろすけ’です.
‘ぽろすけ’は’ぽろたん’と同様に鬼皮が剥きやすい品種で,’ぽろたん’よりも早い時期に収穫ができます.

加えて,’ぽろたん’の受粉にも使える品種です.
‘利平’と違って早くに取れる品種で,鬼皮もむきやすいとか最高ですよね.
とはいえ,問題もないわけではありません.
まず,実が小さいです.栗1粒で21g程度です.また,論文では香りが薄いということも指摘されていました.「栗の香りがしないとクリじゃない」という方にはウケないかも.

でも,いいじゃない.栗を煮たりするなら香り分からないし.
むしろ加工コストが下がって,栗の加工品の価格安くなるかもよ?
そっちの方がみんなハッピーでいいじゃない.

栗の育種,今後はどうなっていく?

‘ぽろたん’の売れ行きや現在植えられているクリの植替えがどの程度進んでいるのかによりますけど,鬼皮が剥きやすい品種の販売できる時期を拡大していく方向に進んでいくのではないでしょうか.
食味をよくするよりも,便利な品種の販売可能な時期を延ばすことで顧客を獲得していくことが先決でしょう.
何なら加工してしまえば食味なんてある程度補えますし,そこまで気にしなくてもいいんじゃないかしら.

食味よりも顧客を作る作業に時間を使うのが吉だと思いますね.そのあと,じっくり時間をかけて食味の改良をすればいいんじゃないでしょうか.




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研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.