遺伝子組換えカイコの商業飼育の可能性




どうも,野良百姓です.

カテゴリを作っておきながら使わないのもなんですし… ということで記事を作ることにしました.
端っからGMO (Gene Modified Organism) を取り扱うのもどうかと思ったのですが,やはりいずれは扱わなければいけないテーマと私は考えているので,最初から切り込んで行こうと思います.

カイコとは

カイコの成虫.飛ぼうともがくオスのカイコ.

まずはカイコの話からしていこうと思います.

カイコは5000年以上も昔からヒトに飼われてきましたが,彼らはそこらへんの山にはいません.野生にカイコはいないのです.
カイコというのは,人類が長い時間をかけて作り出した家畜に他なりません.いつごろ,どのように家畜化されたのかということは諸説ありますが,新石器時代初期の気温上昇期(約1万年―7000年前) と推測されています(布目, 1989).この家畜化についてはArunkumar et al. (2006) の中で分子系統学的な解析によって今までの祖先種と考えられてきたクワコ (Bobyx mandarina) と中国に住むサクサンと呼ばれるものの近縁種でヒマラヤ山脈の南側に住んでいるAntheraea proyleiの交雑によって生まれたと考えられる,と書かれていました.

うーむ,種間雑種で偶然生き残ったということ? 遺伝子だけ混じったとかじゃなくて? このあたりは要検討ですね.

さて,それはともかくとして,家畜化された昆虫のカイコですが,いろいろな品種や突然変異 (一般的には内部に存在するトランスポゾンと呼ばれるウイルスの一種が関係しているといわれている) が存在するので研究がよく行われています.

カイコが実験生物として優れている点を挙げていきましょう.

  1. 大型の家畜化された昆虫で安価
  2. 人工飼料を用いた通年での大量飼育が可能(密度として約1,000頭/m2)
  3. 逃げない
  4. 人への感染病原を持たない
  5. ウイルスを用いたタンパク生産の実績が存在
  6. 大量のタンパク質 (1頭あたり0.2-0.5g) を生産する器官 (絹糸腺) を持つ

こんなところでしょうか.工業的に用いると仮定しても,かなり魅力的な特性が多いことがお分かり頂けるでしょうか?

遺伝子組換えカイコ

カイコそのものの話をしたところで,遺伝子組換えカイコ (GMカイコ) の話をしていきたいと思います.
遺伝子組換え,ということそのものについては別の機会に譲ることとして,GMカイコの特徴です.

GMカイコの特徴

GMということで,外来の遺伝子が染色体の中に組み込まれています.そのため,次世代以降にもその与えられた性質は遺伝し,継続して与えられた性質を発揮することができます.
そして,比較的増やしやすいということもあります.もともとカイコのメスは卵を400-600個生むことが知られていますので,その性質を生かして増殖することも容易です.

また,カイコの実験生物として優れている点でも書きましたが,自発的に飛ぶことができません.なぜなら,腹の大きさに対して羽が小さすぎて飛ぶことができないのです.哀れカイコ,歩いての移動しかできません.

カイコは1930年代には日本全国で約2,350億頭が飼育されていました.様々な研究者が研究を行っていますが,クワコ→カイコの遺伝子の流れは家畜化の流れの中で確認されていますが,カイコ→クワコの流れは検出されていません.2,350億頭も飼っていて流れ出したことがないのですから,風に乗ってどこかに行ってしまったり,運んでいる途中で道にばらまいてしまって…というようなGM植物への批判と同列に語られるわけにはいきません.
まぁ,今までが大丈夫だから今後も大丈夫…と思わずに,常に気を使っていただいているようなので,大丈夫だと思います.

クワコちゃん.かわいい.

それと,こちらも実験生物として優れている点で挙げましたが,タンパク質製造工場とでもいうべき器官の絹糸腺をもっているため,絹以外のタンパク質を効率よく作り出すことが可能です.

GMカイコで何ができるのか

いよいよ本題ですが,GMカイコでは何ができるのか,というお話です.

ここでは基礎科学の研究と産業での応用の2つに分けておきましょう.

研究での用途は何が想定されているのか? というと大きくは次の2つです.

  1. 遺伝子機能解析
  2. モデル生物

では,産業利用は? 産業というぐらいだから,大量に飼育することが求められるような状況で… となるとどういうものがあるのでしょうか.

  1. 新たなシルクの生産
  2. タンパク質の大量生産

現在のところ,こういったものが産業利用としては考えられています.はい.以下で,それぞれについて解説をしていきます.

遺伝子機能解析

まずは1つ目の遺伝子機能解析です.
ゲノム計画などで遺伝子の配列が決まったところで,その並び順にどんな意味があるのか? ということを研究していくことが必要です.そのためには,機能を解析していくことが必要です.
例えば,突然変異をしたカイコに別の遺伝子を導入して,元に戻るのかどうかを調べたり,よくわかっていない遺伝子をとりあえず入れてどうなるのかを観察したり,というものです.

これがなんの役に立つのか? まぁ,そうですね,短期的には私もわかりませんが,長期的に見たら何かに役立つ日が来るはずです.役に立たない研究なんてないです.

モデル生物

モデル生物,というのはピンとこない方が多いと思います.モデル生物とは,生命現象を研究する際に用いられる生物のことです.このモデル生物としてのカイコの期待されている能力として,チョウ目(鱗翅目)昆虫のモデルとしての役割です.
チョウ目は農業的には害虫として,また,生態学では生物多様性の一つとして研究の対象となるものです.害虫のモデルとしては,どういった農薬がどう効果を発揮しているのか,また,どういう効果を持たせれば少ない農薬で効率よく殺虫ができるのか,という研究が期待されます.

また,これ以外のモデルとして,ヒトの病気の一部を再現させたりするような研究が行われています.昨今は動物実験反対運動が盛んですが,必要な実験はしなければいけません.
とはいえ,目に対する影響を調べるから…といってウサギの眼にアヤシイ薬をかけたり,いろいろなラットを飼うのは,実験する人のメンタルに影響を与えますし,何より哺乳類を飼うのはお金 (エサ代) がかかります.

というわけで,薬などに対する反応としてラットに似た挙動を示すことができるカイコを応用したらいいじゃないか,という話になるわけです.
色々な研究があるのですが,コレステロールの輸送を研究することで加齢黄斑変性への研究への応用とか,神経伝達物質のドーパミンに関連する薬物試験など使われているとか (Tabunoki et al., 2016).前に挙げたTabunoki et al.(2016)は面白い論文なのですが,いかんせん英語… 『化学と生物』で日本語の総説にしてくれないかなぁ…

新たなシルク生産

これは結構有名になってきた「ブラックライトで光るシルク」というやつですね.光らしてどうするんだよ,みたいな話もあることは研究している方も承知です.
これについて,学部にいたころにお話を直接伺う機会があったので尋ねてみました (本筋は踏襲していますが脚色しています).

野良百姓
絹を光らせてどうするんですか?
野良百姓
国産絹でできたドレスとかクッソ高くて買う人いなさそうwww
研究者先生
まぁ,光らせたほうがみんなすごいね,っていうじゃん
研究者先生
ぶっちゃけただのパフォーマンスよ.
野良百姓
だったら,ヒトモデルカイコのほうがウケるのでは
研究者先生
いや,予算とってくるときに絵にしやすいわけよ.

だそうです.わかりやすい広告にするから,ってことね.

確かに,光る物質であるGFPを作る遺伝子を入れると,組換えた遺伝子が入っているかどうかが外側から見やすいので,とても使い勝手がいい… というのは研究をする人たちなら誰しも思いますわね.

さて,絹が光るためには,繊維質のタンパク質を光らせればいい,ということになります.絹の繊維とする部分は人工血管などの研究に用いられているので,医療材料として望ましい強度を与えたり,使い勝手のいい材質にする… といった方向で研究が進んでいるのでしょう.
しかし,カイコの繭は繊維だけでできているわけではありません.繊維と繊維をくっつけるための「のり」のようなタンパク質であるセリシンという水に溶ける物質も作っているのです.

タンパク質の大量生産

前であまり書きませんでしたが,セリシンという物質は水に溶けます.つまり,タンパク質の回収が割りと楽チンなのです。

そして,カイコはヒトが作るタンパク質に近いタンパク質を合成することが可能なのです.
タンパク質もいろいろあるのですが,パン酵母とか大腸菌だとやっぱりヒトに合ったタンパク質を作らせるのは難しいんですよ.この辺の理由は割愛しますけど.

今まで色々な動物とか菌が使われてきた部分もあります.でもね,希少疾病といわれるものに対して薬を作るとなると,動物じゃペイしないんですよね.菌もタンパク質の形がヒト型とは異なっていて効かなかったりすることもあるんですよね。

なぜか? 10万人に1人とか100万人に1人しか発症しないとしてですよ? 世界人口は70億人くらいだとすれば全世界で,貧しい者から富める者まであわせて7,000-70,000人.これだけの人のために動物を使うとしてですよ.そんなに薬は大量にいらないんですね.

こうなると,小口で生産することが必要なわけですが,小ロットで作れて,分離するのも簡単で… となるとカイコのセリシンを使うっていうのはかなり合理的な選択になってくるわけですよ.
そんなわけで,セリシンしか作らないカイコの’セリシンホープ’っていうのが育種されています (突然変異のカイコを選抜したものでGMではない).

現在,鋭意研究がすすめられており,臨床検査薬であったり,免疫系に関わるインターロイキンなどの物質を生産させてみたり…といったことがなされています.

遺伝子組換えカイコを商業飼育できるのか

こんなにいろいろなことができるかもしれないGMカイコですが,やはり生態系に関わる問題は常に付きまとってしまいます.飛べないから大丈夫だとは思うんですけどね…

現在は群馬県の試験場だけでの小規模試験飼育ではあります (2015年より).とはいえ,私はGMカイコの商業飼育が今後行われることは可能だと思っています.
なぜか? GMダイズとかGMトウモロコシのように,農家が恩恵を受けるだけではないからです.

あの手のGMへの反対論としては,「GM!? 危ない! 私は絶対に口にしないから,栽培するな(輸入するな)!!」というパターンが多いわけです.
まぁ,その反応もわからなくはないですよ.他の生物の遺伝子が入ったダイズとか気持ち悪い,と思うのが正常な反応なはずですし.

ところが,GMカイコの場合は違います.GMカイコの商業飼育の規制をすると,病気にかかった時の薬代が高くついたり,検査に時間がかかって病院で1日を過ごす羽目になったり,ヒトに効果のある薬の開発に時間がかかってしまった… というようなことが起こるわけです.
GMカイコに限っては,GMを好むかどうかはもはや他人事ではなく自分の命にもかかわる問題となって発露してくるわけですよ.

そういった点で,商業飼育が不可能だ,となることはないでしょう.ただ,こうしたメリットについてを多くの人に知っていただくことが必要ではあります.

加えて,もう1点の理由があります.
中山間地域の荒廃とか過疎化が叫ばれて久しく,政府は人口減に対応したいとは口にするものの,こうした地域にマトモな産業を生み出すことができないでいます.
これらの地域の現状を見て,高付加価値のものが生産できるのか?
という話になると,

不可能

としか言いようがありません.

しかし,医薬品の生産となれば高付加価値のものが生産できるわけですよ.しかも,飼育をしてその場でアンプルのようなものに詰める,となればそれなりに雇用も発生します.
こうした中山間地域であれば,外部からの人の侵入も感知しやすいわけで,盗難なり不法侵入なりも防げるし,かつての養蚕のノウハウも少しは残っている… となれば,世論の成熟をメディアが促せば生産ができないわけがありません.

今後どのように実現が進んでいくのかを見守っていきたいと思います.




1 個のコメント

  • なんと、カイコがGM?

    植物の場合、GMがいったん入ったら、花粉が飛んできて、
    拡大を防げない。けれど、カイコ?

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    研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.