種子法廃止と種苗会社




どうも,野良百姓です.
横浜のあたりから今の種苗会社と種子法の間の関係はどうなっているのか? もしかしたら増収するのでは? みたいな疑問が飛んできました.

前回のエントリでは,何というんでしょうかね,政策論に終始してしまった感が否めませんので,投資的にはどうなんだ,みたいな視点を今回は持っていこうと思います.はい.

どうも,野良百姓です.種子法が廃止される運びとなりました.こんな書き方すると悪い意味で拡散してしまいそうなので,先に申しあげておきますが,世の大勢と同じく種...
前に種子法が廃止された理由が問題の本質ではなく,お話にならんぞ! という話をいたしました.そんな種子法が廃止されると種苗会社が主要作物の育種ができるようになってトップラインが上がってくるのでは? という率直な疑問は私には浮かばなかったのです.

いや,私が投資家としてイケてないという話ではありません.

種苗会社の分類

今回お話をする種苗会社について,まずは便宜的な定義を行っておきたいと思います.

  1. 伝統的種苗会社
  2. 先発新規参入組
  3. 後発参入組

というような類型に定義を行います.

伝統的種苗会社に属する企業は,タキイ種苗,サカタのタネらを筆頭とする旧来より育種や種苗の卸売を生業としてきた種苗会社のこととします.
次いで,先発新規参入組を1985年前後に新たに参入した三菱化学 (三菱商事とのJVである植物工学研究所を経由),三井化学,住友化学,キリンビール,全農,JTの6社としましょう.
そして,後発参入組として2005年ごろから参入をした日本モンサント,ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン (自動二輪のHondaの子会社),植物ゲノムセンター (日立やジャフコ,伊藤忠らの出資) の3社としておきましょうか.ほかにもいるとは思いますが,とりあえずのところこうしておきましょう.

種子法と伝統的種苗会社

まず,伝統的な種苗会社と種子法の関係です.
伝統的な種苗会社は,様々な育種方法のノウハウを持っていることは事実です.しかし,伝統的な種苗会社の利益を得る方法は想像とは大きく異なっています.
すなわちF1種子の販売による,市場の独占と交配系統の非公開化によるブラックボックス化とでもいったものです.

ようわからんという話になるので,すこし細かく話をしていきたいと思います.
まず,種子法は何に対する法律であったのか? というと「主要農作物」でしたね.特に,イネ,コムギ,オオムギなどのイネ科植物が挙げられていました.これらは,1度品種を作ってしまえば基本的には農家の自家採種によって種が賄われており,基本的に種を購入するという文化はあまりありません (時々種を入れ替える目的で買ってますけどネ).
一方で,野菜の種子はどうかというと,一部の野菜を除くと基本的にその種は1度きりです.つまり,栽培をして育ったトマトなりナスなりの中から種を取り出して,それをもう一度蒔いて使う,という発想はありません.
なぜなら,母親(AAbb)と父親(aaBB)の交雑でできた子(AaBb)は非常に優秀なんです.でもね,子(AaBb)同士で生まれた子供は様々な形質を持ってしまうんですよ.

メンデルの遺伝の法則 (Science Learning Habより引用)

上の画像では2つの遺伝子(丸orしわ,黄or緑)のみで考えていますが,例えばトマトだとどうなるんでしょうか.
トマトの持っている遺伝子はいろいろありますが,耐病性遺伝子だけでも7つ,節間が詰まるとかいうような単一遺伝子支配ではないものとなるといくつあるのでしょうか? これが上で示している独立の法則に則って各遺伝子が分離していくわけですよ.もはや売っているトマトの種から生まれたトマトはもとのトマトとはならないわけです.

気づいたでしょうか.伝統的な種苗会社は自社のブリーダーや所有している遺伝資源をつぎ込んで,優秀な子どもを作り出す親を育成し,そんな親を用いて優秀な子どもを生み出すカップルを探し出している,というものがビジネスモデルなわけですね.こうしたことをすれば,種苗法という法律で定められている育成者権の期限が20年なんて言うのは簡単にクリアできる問題となるわけです.
要はビジネスのやり方が根本的に違うので,仮に育種のための素材があり,また,ブリーダーがいたとしても従前の方法ではリターンが期待できないわけです.ということで,伝統的な種苗会社が種子法が無くなったからといってやることはないでしょう.

ちなみにこの件について,過去にサカタのタネの株主総会で質問をしたことがありますが,「コムギやイネは国内で利益を上げることは難しく,国外ではMonsantoなどに勝つことは難しいためやりません」ということを研究開発部門担当の役員と専務が言っていましたので.

種子法と先発新規参入組

先発組についてですが,現在でもイネなどの種子法の対象になっていた作物の研究を行っている企業がまずどれぐらいあるのでしょうか.1985年ごろに参入して,2017年6月頭の時点まで事業を継続している企業は,三井化学と全農の二社のようです.

三菱化学は事業譲渡を行ってしまい,事業譲渡先の中島美雄商店が倒産 (日経新聞2010年).住友化学は1990年代にイネの育種事業を停止しています (日経バイオ年鑑1996).キリンは事業の選択と集中を行う中で2010年にアグリバイオ事業をH2 Equity PartnersというPEファンドへ売却しています (会社プレスリリース2010年).JTはというと,2002年に育種事業そのものからは撤退しました.しかし,現在もイネの研究で用いていた単子葉植物の遺伝子組換え技術を基軸として,多収性や乾燥耐性といった有用形質に関与する遺伝子の特定と権利化を行い,種苗会社へ供給していこうとしています (柏原ら2013).

では残った会社はどうしているのか.各社見ていきましょう.

全農

まぁ,全農はJAの経済事業の総元締ですからね.言い方は悪いですが,博奕の胴元が博打に参戦しているようなもんです.
さて.当初は伝統的種苗会社と同じようなF1品種の作出をしていました.これは,F1にすると多収になるという性質を生かしたものになります.ところが,これを事業化するためには3,000haもの農地に普及することが必要でした.こんなに普及させるのは… 無理.

ということで,F1品種の方向では1996年以来研究をしていないようです.
その代り,といってはなんですが,国や都道府県の研究機関の育種と同じ方法を用いて新品種を生み出しました.’はるみ’といいます.

この’はるみ’,食味もよく,倒れにくく,早生という性質を持っています.その上,高温でも心白とよばれる不良な米ができにくい,という温暖化に適応している品種となります.県の試験場などにも試験栽培の依頼を出したと見え,神奈川県では2015年に奨励品種に登録されています.

いいですか,全農の開発した品種が神奈川県で2015年に奨励品種に登録されて,栽培されているんですよ?

民間育種が奨励品種になっていない? ちゃんちゃらおかしいわ.片腹痛い,笑止の論とでも言っておきましょう.

三井化学

確かに全農はやっとるけども,全農は国と直接関係ないとはいえ農林水産省の外局の如き働きをしているのだろう,と勘繰ることもできないではありません.実際農学部にいたときに,全農は農水の言うことを聞いているのでは,という話が学生の間でまことしやかにささやかれたこともあったりしましたし.

そんな人たちでも,三井化学は民間であることに間違えない,と言えますよね?

そうなんです,三井化学,とてもすごいんです.まず,全農があきらめた,というか日本では (!) 見捨てられた技術となったイネのF1品種の開発を行いました.そうはいっても,全農もやったじゃないか,みたいな話になりますよね.
何がすごいかというと,食味もよく,多収の品種を開発して,それを安定的に供給するための種子の生産体制を作り出した,ということがすごいんですよ.全農では3,000haにわたって栽培の普及が必要だったわけですが,三井化学はそんなにいらないよ,ということだったわけですね.
いや,今回こういう風に調べなければ,私自身日本にはハイブリッドライスの栽培は行われていないんだなぁ,と処理していたところでした.調べてヨカッタ.

さて,三井化学の品種’みつひかり2003’や’みつひかり2005’はどの程度栽培されているのか? というと,全国で1,500haの栽培面積を誇ります.いや,本当にすごいよ.奨励品種はおろか準奨励品種にもなってないし.それでも産地が形成されている,というところが本当にすごい.

種子法と後発参入組

後発参入組はどうなんだよと.日本モンサントは日本の研究機関と同じような交雑育種を行うことで,品種を開発しています.栽培面積は少ないけどね.
植物ゲノムセンターとホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパンは’コシヒカリ’に求めている性質を持った親を交雑してできた子供にひたすら’コシヒカリ’を交雑し続けることで得られる「準同質系統」というものを作り出すことで実現していくものでした.

‘コシヒカリ’にあらずんば稲に非ず

とでもいえるような我が国の米消費の現状から考えれば,こういった方針も短期的にはアリなのかな.長期的な視座に欠けた,その場しのぎのシェアのとり方とでもいえばいいのだろうか.

まぁ,そんなことはどうでもいいのですが,植物ゲノムセンターの作り出した’コシヒカリつくばSD1’という品種は現在1,700haほどの生産面積を誇っています.国内の農薬シェアトップの住友化学と一緒に仕事してるからまぁ,そうなるよな.

仮の結論

種子法の廃止は誰のためだったのか.

既存の種苗会社は資源の浪費になるだろうから,主要穀物に対して育種をするとは考えにくい.当然,ROEを上げろだのEPSを高めろだの言われるから,株主からの理解も得られるか怪しい.

1990年代前半に販売を行っていた先発新規参入組は,一定程度既に成功を収めてはいる (撤退した方が多いけども).しかしながら,県のお墨付きともいえる奨励品種を取っているのは全農の開発品種のみだから十分な市場開放がされていない,という主張は可能.そうは言っても,イネの種子を毎年販売していたわけだし,今更種子法が無くなったからといって何か変わるわけでもない.

後発参入組は? 農薬メーカーと協業することで一時的には成功を収めているとはいえる.しかし,’コシヒカリ’人気にあやかった日本企業は長期的な目線で見れば自分たちの資金だけで育種を行うことには疑問あり.当然Monsantoは元より遺伝子組換えなどのバイオテクノロジーのノウハウを持っているわけで,アメリカ合衆国でもしかしたらイネのF1であったりGMOであったりを研究しているのかもしれないけれど,残念ながら商品ラインナップには載っていないし,広報する気がなくかえって不安を増大させるようなマーケティングをしているとしか思えない.

もう一つの情報として日経新聞の2017年1月ごろの記事に,種子法の廃止とともに民間の育種に対して補助金をつける,みたいな話があったことも踏まえて仮の結論を出すとしましょう.
まず,種子法の廃止によって恩恵を受けるのは,育種に対する今までのノウハウがない後発参入組であることは論を待ちません.企業の多角化戦略であったり,最後のフロンティアの農業への進出の足掛かりとして,また,強力なライバルとなり得る伝統的種苗会社が出張ってこない穀物種子という市場を取りたい,という人たちが存在するのではないでしょうか.
そして,その実現手段として,国や都道府県の研究機関が育成する品種ばかりが奨励品種となる現状がある,と言いがかり的な主張をしてみたりするわけです.どうなんですかね,この姿勢.

いずれ,結局何がしたいのか,みたいな話を書きたいと思います.




2 件のコメント

  • そうか、三井化学に投資、そうですね?
    早速、株価チェック! サカタやタキイでなく、
    化学会社、知らなかった・・・

    • 投資を推奨する意図はあまりないのですが,この研究については三井化学の子会社の三井化学アグロで現在行っております.
      今後の三井化学としては三井化学アグロを含んだフード&パッケージングなどの高機能性材料を用いる方面へと事業を拡大していく,というのが会社側の発表(有報FY2016)です.

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    研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.