国産小麦とパンのおいしくない関係




6月.麦秋です.皆様いかがお過ごしでしょうか.野良百姓です.

ここ最近は雨が少ない梅雨だったようにも思いますが,今年は割と降っているようです.今度は降りすぎで根腐れ… とならないように祈るばかりというところでしょうか.
さて.6月は麦秋,麦の収穫期です.
今回は麦の中でも小麦に焦点を当ててみましょう.

小麦ですが,「最近は」Pascoが国産小麦を使用したパン,というものを売っています.なぜ最近なのでしょう.今回は,国産小麦を用いたパンが最近までほとんどなかったことについて考えていきたいと思います.

小麦とは

何をいまさら… と思われますが,小麦について話をするところから始めましょう.

小麦には様々な種類があります.英語ではwheatと言いますが,wheatにもいろいろあります.いくらか例を挙げてみましょう.

まずは,パンコムギTriticum aestivumでしょうか.いわゆる小麦がこれに当たります.次はデュラムコムギTriticum durumです.パスタによく使われているやつですね.マカロニコムギ,とも言います.
ほかにもあります.エンマーコムギTriticum dicoccumだとかクラブコムギTriticum compactumだとか.

こんな感じでまぁいろいろいるんですが,今回は小麦とパンのお話をしていくので,パンコムギTriticum aestivumの話をしていくことにしましょう.

今回はコムギと書いた場合は,断りがなければパンコムギを指すと考えてください.

さて,そのコムギですが,学名を見たときに気になるのはTriticumという文字列です.三を表すラテン語の接頭辞がtri-なので穂の実が三列に並んでいることに関係するのかなぁ…とアタリをつけてみたのですが,そういうわけではないようです.
何とまぁ,ラテン語でtriticumという単語そのものが小麦を指すそうです.なぜそうなのかは,私には知る術がありません.とにかくそういうことだそうです.aestivumの方はと言えば,こちらは夏を意味するaestivusの中性単数対格形と考えるのが妥当なようです.

要するに夏の小麦といったところでしょうか.
よく観察されているように思えます.

小麦粉の分類

さて,ここで突然ですが小麦粉の分類のお話をしたいと思います.

小麦粉もいろいろと種類がありますが,何が違って,どんなものが材料で… ということについてはあまり知られていないと思います.特に国産小麦だったり輸入小麦だったりした際に,何が原料になっているのかということはあまり気にされることもないでしょう.

まずは,各種の小麦粉の紹介とその原材料となる小麦について紹介したいと思います.場所の都合でここでは略称を使いますが,下の項できちんと説明しますのでよくわかんないや,と投げないでほしいところです.

種類 用途 タンパク質含有率 (%) 原料
強力粉 食パン 11.5 – 13.0 1CW, DNS, HRW
準強力粉 中華めん,餃子の皮など 10.5 – 12.5 PH, DNS, HRW
中力粉 うどん,ビスケット,和菓子など 7.5 – 10.5 ASW, 国産小麦
薄力粉 ケーキ,天ぷら粉,カステラなど 6.5 – 9.0 WW

とまぁこんな感じです.
見ていただくと分かるように,タンパク質含有量によってその種類が分けられていることが分かります.料理をされる方であれば,水を加えて練っている際に粘り気が違う… ということを思い出していただければ,わかりやすいかと思います.

小麦の種類

どんな小麦粉が存在するのかを知っていただいたところで,その材料の話をしていきたいと思います.日本と外国では事情が違うので,それぞれ別に考えていきましょう.

外国の小麦

外国の小麦は,上の原料欄に挙げているものが日本に輸入されている「銘柄」となっています.
要するに,外国の小麦とは言ったものの,これらは○○種という品種ではなく,一定の品質を出すためのブレンド品なわけです.

これらの銘柄について調べてみました.

1CW; No.1 Canada Western red spring wheat

Canada Wester Red Spring (CWRS) という銘柄の1級品です.栽培地域は,恐竜化石で有名なアルバータ州,カリ鉱山で有名(?)なサスカチュワン州およびマニトバ州の3州,あわせて1500万エーカーです.
AAC Elie, AAC Prevail VB, SY479 VB, AC Goodeve VB, AAC Redberryという品種が混ぜられています.

PH; Prime Hard wheat

Australian Prime Hard (APH) という銘柄の日本の製粉メーカーでの呼び方です.白い硬質コムギからなる銘柄です.これらは,バゲットのようなパンとか,ラーメンの麺や中華麺に適しています.ワンタンの皮もこの銘柄が使われることが多いようです.APHは小麦粉の品質の調整のために,タンパク質が少ない中力粉や薄力粉にする品質のものとも混ぜられることがあります.APHを名乗る銘柄は,オーストラリアのニューサウスウェールズ州とクイーンズランド州で生産されたコムギでできています.
用いられている品種としては,LRPB11-0140やWedgetailというものがあります.

DNS; Dark Nothern Spring wheat

DNSは,Hard Red Springの一種のことを指します.Hard Red Springの中にはDNSを含めて3種類の下位分類があり,褐色で硬質のコムギ粒が75%以上の物をDNS,25%以上75%未満のものをNorther Spring,25%未満のものをRed Springと呼びます.
様々な品種が知られており,Hard Red Springとして分類される品種には,Bullseye, Cabernet, Cal rojo, Kelse, Lariatなどの品種が知られています.UC Davisの資料によると,カリフォルニア州だけでも19品種が栽培されているようです.

HRW; Hard Red Winter wheat

HRWはミズーリ州にあるカンザスシティ商品取引所でKC HRWとして取引されています (受渡しの標準銘柄はNo.2).シカゴの有名な市場(CME)はSRW; Soft Red Winterを標準銘柄として扱っているので,パン用の先物市場と考えられている場所はカンザスシティなのかもしれませんね.
こちらのHRWにもさまざまな品種が用いられており,Jagger, Billings, OK Bullet, Overleyなどの品種が,米国のグレートプレーン南部で作付けされています.名前が西部開拓っぽい感じがしますね.

ASW; Australian Standard White

オーストラリアの白コムギです.ただ,これについては良くわからないのですが,特種用途の規格が存在しており,ANW; Australian NoodleやAPNW; Australian Premium Noodleという銘柄が存在します.

ASWは汎用性が高い小麦のグレードなので,ほとんどがうどんに用いられる日本の場合は,実際に輸入されているものは(店舗とかで広告に使われている)ASWではなくANWないしはAPNWという話です.

これらに用いられている品種ですが,Calingiri, Fortune, Mace, Zen, Ninjaといったものが存在しています.何となしに日本を想起させる品種名を使っているような気が…

WW; Western White

WWはUSDAの規格でいうとsoft white wheatというものにあたります.生産が行われているのは,オレゴン州,ワシントン州,アイダホ州の3州が主力です.

品種は様々ありますが,Calorwa, Challis, Eden, Jubilee, Louise, Whitebirdなどがあります.全体的に白っぽいイメージのする名前です.

White wheatとRed wheat

ところで,白コムギと赤コムギってなによ? と思われた方も多いと思います.
小麦の実の色が違うだけです.でも,本当に色が違うんですよ!

こんな感じです.

日本のコムギ

さて,先ほどまで書いていた海外と比べて日本のコムギはどうなんでしょうか?

実は日本では小麦の銘柄というものはありません.全て産地と品種で取引されています.お米と一緒ですね.

そんな日本でも,コムギは様々な品種があります.有名どころをいくつか紹介していきたいと思います.

農林61号

非常に古い品種ですが,現在も栽培が続けられています.2006年ごろまでは,北海道を除いた日本全国で最も栽培されていた品種です.2016年現在では,1.7万tが生産されています.

日本麺用品種として知られており,1935年から1944年までの10年間をかけて,現在の佐賀県農業試験研究センターで育種されました.倒伏耐性や病害抵抗性が強く,作りやすかったことが現在まで続いている理由であると考えられます.

きたほなみ

現在,日本麺用品種の主力品種として栽培されている品種です.2016年現在では,48.4万tが生産されており,そのほとんどが北海道で栽培されています.

現在の北海道総合研究機構北見農業試験場で,1995年から2005年までの11年間をかけて育種されました.この品種は生育が早く,茹でたうどんの色がきれい! というのがウリの品種です.上に挙げたASWと品質面で勝負できるような品種となっており,日本製粉などで製品に利用されています.

ゆめちから

パン用品種の筆頭の1つの品種で,2016年現在では6.2万tが生産されています.この品種は2010年から作付けが始まった新たな品種です.

こちらは国の研究機関である農研機構 北海道農業研究センターで育成された品種です.優れた病害抵抗性を持つだけではなく,超強力小麦粉を作ることが出来るグルテンの強い力を持っています.

この品種の優れている点は,ゆめちから:中力小麦の比率を75:25から50:50程度としてブレンドすることで,パン用に用いられている1CWと同等またはそれ以上のパンの品質を得ることが出来ます.

春よ恋

‘ゆめちから’と並ぶパン用小麦の筆頭格です.’ゆめちから’よりも少し古い品種で,2003年に育成された品種です.

育成はJAグループのホクレンが行った品種で,日本初の民間育種の品種です.

パンと日本のコムギ

さて,ここまでで外国の小麦銘柄や日本の小麦品種について書いてきました.
日本国内の小麦の需要について,食料供給表からまとめてみると次のようになっています.ここで,縦軸は1人あたりの消費量(kg/年),横軸は年度です.

意外と小麦需要と比べて米の需要が頑張っているようにも見えますね…

小麦需要は実際のデータを集めなかったのでなんともいえないのですが,主な部分はパンと麺類ではないでしょうか.米とパンの需要の変化についても調べてみたいところではあります.

日本のコムギの今後

さて,うだうだ書いてきましたが,日本のコムギは今後どうなっていくのでしょうか?
あくまで今回は育種の方向性についてのみ検討することとしましょう.

育種はパン用及び麺用の両方を進めていくことには代わりがないと思われます.しかし,求められる特性が大幅に異なることから,汎用品の開発は不可能といえます.

そこで,様々な品種をブレンドすることで求めている適性を引き出していくことが考えられます.
となると,’ゆめちから’のような中力小麦と合わせることで製パン適性や中華麺の適性を高めることが出来る品種の引き合いが強くなっていくのではないでしょうか.
このためには,優良なうどん用品種の開発も必要であり,様々な品種を組み合わせる銘柄小麦への以降が今後進むと思われます.




1 個のコメント

  • 国産小麦、経済的に合わないなら、外国から輸入すればよいでしょうか? 野良百姓さんの記事に期待します。

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    研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.