コムギとグルテンの話




どうも,野良百姓です.
近隣では,先週がコムギの収穫でした.他の地域だともう終わっているんでしょうか.何にせよ,雨が降らないうちに収穫できたならば上々というところでしょうか.

さて,前にコムギの話をしましたが,今回はその中にも出てきたHard wheatのお話とグルテンの話です.

国産小麦とパンのおいしくない関係

2017年6月2日

軟質コムギと硬質コムギ

コムギの子実は,遺伝的な粒の固さで硬質と軟質の2つに分類されています.

硬質コムギ

硬質コムギは比較的タンパク質含量が高く,子実が飴色に透けて見える硝子質のものが多い.そして,子実の切断面は固いガラス状を呈して,強力粉に向いています.

透けて見える理由は,コムギの胚乳細胞内でデンプンの粒とタンパク質が結合しているからなんです.
本来,コムギのデンプン粒の表面には,ピュロインドリンというタンパク質が結合しているため,デンプン粒とコムギ子実中のタンパク質は結合できません.
しかし,このピュロインドリンのPIN-aとPIN-bを作り出す遺伝子の1つが壊れていたりなかったりすると,デンプン粒とタンパク質が結合でき,強固な子実の形成が可能になると考えられています.
そのため,コムギの胚乳が硬質化して,硬質コムギになります.
パンコムギの硬質品種では,ほとんどが一方の遺伝子のみの変異を持っていますが,パスタに用いられるデュラムコムギ (Triticum durum) はこれら遺伝子を2つとも欠失している硬質コムギです.

軟質コムギ

軟質コムギは比較的タンパク質含量が低く,子実が白色を帯びて見える粉状質のものが多いです.そして,子実の切断面は主にデンプンでみたされているため粉状で,薄力粉や中力粉に向いています.
日本で栽培されているコムギは軟質コムギなのですが,タンパク質含有率が中間的であるため中力粉に向くものが多いので主に麺で用いられています.

軟質コムギの品種では,胚乳に存在しているデンプン粒の表面にピュロインドリンと呼ばれるタンパク質が結合しているので,胚乳細胞内でデンプン粒の隙間を埋めているその他のタンパク質と結合できずに胚乳を軟質化させています.ピュロインドリンにはPIN-aとPIN-bの2種類があり,それぞれが単独の遺伝子によって生産されています.

グルテン

加水した小麦粉でのグルテンの形成 (コムギの品質に関わるグルテンの遺伝的素質について より)

パン作りの時に小麦粉に水を加えて捏ねると,べたつきながらもまとまっていき,最終的には伸びる性質を持っていきますよね.
この伸びる性質や粘着性などに関わってくるのがグルテンです.

グルテンはもともと小麦粉の中に存在しているわけではなく,水を混ぜて小麦粉をこねることで生成される物質です.
もともと小麦粉の中に含まれているタンパク質のうち約85%を占めているグリアジンとグルテニンものがあるのですが,グルテンはこの2つが結びつき,絡み合うことで形成されます.
グリアジンは弾力は弱いのですが強い粘着力と伸びやすい性質を持ち,グルテニンは弾力に富んでいるのですが伸びにくい性質を持っています.

グルテンはコムギ独特のタンパク質であるとともに,製パン性にもかかわってくる因子です.
この製パン性には,次のような遺伝子が関わっています.上で挙げたピュロインドリンPinb-D1c,グルテンを強くする高分子量グルテニンGlu-D1d,グルテンの伸びをよくする低分子量グルテニンのGlu-B3hの3遺伝子です.

ここでは,特に高分子量グルテニンのGlu-D1についてを見ていきましょう.

いやちょっと待てよ,という声が聞こえてきそうなので,少し説明をしておきます.
Glu-D1dというのは,Glu-D1の中の一部なんですね.他にもGlu-D1aというものもあります.

さて,Glu-D1dでは,グルテニンのサブユニットの5型と10型の二つを合成します.このうち,サブユニット5型は他のサブユニットよりもシステインを1個多く持っているため,他のサブユニットと比べてグルテニン間の結合をより立体的な網目状とすることが可能になります.
何がいいかっていうと,スポンジ状の構造がより密になるわけですから,伸びが良くなるわけですよ.

そのほかにもサブユニットの組み合わせはあるのですが,2型と12型の組み合わせとなるGlu-D1aであるとか,あまり日本には見られないようですが,3型と12型の組み合わせ,4型と12型の組み合わせといったものが存在しています.
この組み合わせのどちらも製パン性は悪いです.正直,パン用にするならいらない遺伝子かもしれません.

最近では,これまで育種されてきた品種に対して戻し交雑によって,これら製パン性の高い遺伝子のみを導入する新たな育種も行われています.

この方法で育種されたのが,’せときらら’という品種です.2012年に西日本農業研究センターで育種され,山口県で奨励品種になっています.京都府でも奨励品種とするための栽培試験が行われているようですね.
やはり,温暖地でもパン用コムギが生産できる,というのは水田裏作であるとか転換という点でも有利なのでしょうかね.

では,今日はここまで.




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研究者になることはやめましたが,農とともに心はあります. 何とか「修士(農学)」の学位を獲得できた模様.このブログもそろそろ真面目に書かないと... と思っています.